◆ある男の日常〜Ver. WHO?〜
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「おらーッ!」
「エナジーチェーン!」
レッドが足元目がけて蹴りを入れるとモンスターはバランスを崩し、左側へと大きく揺れた。そこへ魔力で作られた鎖が巻きつき、モンスターの体を締め上げる。
ぎちぎちと音を立てて鎖がモンスターの体へと食い込んでいき、その動きを完全に封じ込めていく。
「よっしゃ! これで仕上げだ!」
体制を整えたレッドが、モンスターへと掴みかかろうとしたその瞬間、閃光が放たれた。
あまりにも強いその光は、瞬時に二人の視界を真っ白に染め上げる。目の前に無数の斑点が浮かび、モンスターの状態を把握することすらままならない。
何とか視界をはっきりさせようとかぶりを振るが、ちょっとやそっとでは治らず、ルージュは術を放っていた手を下げてまぶたを押さえた。
何度も瞬きしつつ、徐々に視力の感覚を取り戻していく。ようやくおぼろげながら周りの風景が見え始めた時、今度は隣りから眩い光が放たれた。
驚いて必死で目を凝らすと、ぼんやりとだが動きが見えた。レッドの体が光に包まれている。やがて光が飛散し、その中から現れたのは金色のファイティングスーツをまとったヒーロー――。
(アルカイザー!)
その姿には見覚えがあった。先日、ブラッククロスの情報を掴んで訪れたマンハッタンのキャンベル貿易ビル。そこの女社長が四天王の一人、アラクーネだとわかり、撃破したその時、共に戦った謎のヒーロー。それこそが今目の前にいるアルカイザーだった。
(まさか、そんな――!)
ルージュが目を見張った瞬間、目の前にいきなり黒い影が現れ、ルージュの視界を遮った。
「御免!」
男の声と共にルージュのみぞおちに一撃が加えられる。激痛が体を駆け抜け、意識が遠ざかる瞬間、黒い影が離れていった。アルカイザーとは違う、黒いファイティングスーツに身を包んだ人物。
(あなたは――?)
問いかけたつもりでいたが、微かに唇が動いただけでそれは声にはならなかった。やがて闇が襲い掛かり、ルージュもまたその場に倒れこんだ――。
* * *
「お、やっと目覚ましたな」
目を開けた瞬間に視界に入ってきたのはいつもと変わらぬレッドの笑顔だった。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して辺りを見るとどうやらシュライクの宿屋のようだ。レッドの後ろ、相変わらず無表情な時の君と顔中絆創膏まみれのヒューズが、仲良くそろって腕組みをして立っていた。
「あれ? 僕は……」
「生科研から帰ってきてからずっと寝てたんだよ」
「そうだぜ。『気絶してるしこりゃやべーっ!』って思ったらぐーぐーいびきかいてるんだもんなあ。参っちゃうぜ」
ヒューズとレッドが口々にそう言うのを聞いて、ルージュは必死に記憶の糸をたどり寄せる。
確か生命科学研究所に行って、研究員がモンスターになって、それで皆で戦って――。そこまで考えてルージュは慌てて飛び上がった。
「アルカイザー!」
その声に他の三人が思わず驚いた顔をした。しかし、それはヒューズの一笑で表情を変える。
「そういや、アルカイザーが来たらしいな!」
「そうなんだよ! ルージュ、お前も見たのか?」
生き生きとした目でレッドがそう聞いてくる。
「な、何言ってるの! アルカイザーはレッドじゃないか!」
ルージュが思わずそう叫ぶと、とたんに室内にヒューズとレッドの爆笑が響き渡った。
「おい、ルージュ。何言ってんだよ!」
「そうだぜ。こんな弱っちいガキがアルカイザーなわけねーだろ!」
「そうそう……って弱っちいって何だよ、おっさん!!」
「おっさんって言うなっつったろ! 第一、弱っちいやつを弱っちいって言って何が悪いんだ?」
ぎゃいぎゃいと掴み合いの喧嘩を始めた二人は放っておいて、ルージュは一人黙っていた時の君へと視線をよこす。
「……酔狂な考えだな」
眉一つ動かさず、ぽつりと呟かれた一言にルージュは目を丸くした。
「でも、僕はこの目で――」
「確かにあれは人間としての戦闘力は平均より勝っているかもしれん。だが、キャンベルビルで見たあのアルカイザーとやらの戦い方とはまったく違う。大方、意識を手放す瞬間に幻でも見たのだろう」
「そうかなあ……?」
しきりに首を傾げるが、幻と言われればそのような気もする。いかんせん意識を手放す直前のことなのではっきりと覚えていない。そう、意識を手放す――。
(……あ!)
ふいに一人の男の存在が頭を過ぎる。黒いファイティングスーツに身を包んだあの男!
「レッ……!」
思わず呼びかけるが、当のレッドはヒューズにプロレス技をかけられ、床に突っ伏したまま叫んでいる。しかもちっとも反撃できていない。
「まったく、どれもこれも酔狂な輩よな」
助けるでもなくその光景を見ていた時の君の呆れた声に、ルージュも思わず頷き返す。
(そうだよね。例え、あの人とアルカイザーが関係あったとしても、レッドがアルカイザーなわけないよね……)
何度も形勢逆転しようとしてはそのたびにさらに締め上げられている友達を見て、ルージュはくすくすと笑いを漏らした。
「がんばれ、レッドー! 弱っちいよー!」
「うるせー!!」
星空の下、小さな宿屋の一室から明かりと共に笑い声が溢れ出す。
黙ってそれを見上げていた男は、微かな笑みを唇にたたえるとさっと踵を返し、夜の街へと消えていった――。
|| THE END ||
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