◆The Tail Catchers
(2/-)
しかし、ここでヒューズからとんでもない情報が告げられた。
「でもな、お前の言ってるその黒いフードをかぶった男な、俺らにお前がここにいるって教えてきたんだぜ。もしそれが同一人物ならどうだ」
「つまり双方ここへおびき寄せられたというわけか」
「ああ、そいつの思惑通りにな」
知らないと頭(かぶり)を振る男に嘘は見られない。恐らく使い捨てのつもりで引っ掛けられたのだろう。
「だが俺たちにとっての問題はそこじゃない」
そう話を切り替えたこちらに対し、ヒューズは立ち上がるという仕草で抵抗を見せた。
「いいや、俺らの問題はここまでだ。こいつ、そろそろしょっ引かせてもらうぜ」
パトロールにとっては実行犯こそ目の前の獲物。それがわかっている以上、確かにいつまでも足止めをさせているわけにもいくまい。ましてや、こちらにはまったく別の目標ができたとすれば尚更だ。
「えっ、匿ってくれるって話は……」
「パトロールにやってもらえ。それより、こちらはお前に仕事を頼んできた男の方が気がかりだ」
「心配すんな。たとえ命を狙われようが、フラフラしてるよりは檻の中にいた方が安全だぜ」
意地の悪い笑みをヒューズが浮かべたが、それも一瞬のことだった。男は問答無用と言わんばかりのサイレンスに連れられ、情けない声を上げながらも店の外に引きずり出されていく。代わりに店へと入ってきたアニーとヒューズの小競り合いがあったが。顔を合わせるたびとは、まったく飽きない奴らだ。
「なに? あのバカ、またサボりに来たの?」
「そうではないが野暮用でな。それよりアニー、探してもらいたい奴がいる」
未だ入り口を睨みながらの問いかけではあったが、今までのことを手短に話すとすぐに彼女も合点がいったようだ。
「オッケー。報酬ははずんでよね」
「結果によりけりだ。それからライザも頼む。どうもこれには何か事情が隠れているような気がしてならない」
「直感?」
「まあ、そんなところだ」
「あら珍しい。あなたが勘で物を言うなんて」
そう言いながらもまた彼女も戸口へと向かう。うちの支部のいいところは行動が早いところくらいか。だがとにかく今は、その速さが武器になる。
* * *
「とんでもない野郎を引っ張っちまった」
翌日、今度こそ正真正銘サボりに来たヒューズは、テーブルについてから今まで何度もその言葉を口にした。昨日捕えた男のことだ。何でも、本人は親などいないと言ったらしいが、実は父親がいるらしい。しかもマンハッタンのお偉いさんだとか。どうやって今回の事件を知ったのかはわからんが、有能な弁護士とやらを寄越してきて、何かと署内で煩いらしい。
「どうやら数年前に大喧嘩して、あの男はクーロンにやってきたらしいんだ。すでに本人は縁を切ってるつもりらしくて、それで親はいないなんて言ったみたいだぜ」
「よくある話だな。どうせ十年もすればほとぼりも冷めるだろう。――それより、例の男のことはどうなった」
こちらが尋ねるとヒューズは少し驚いた風な顔をしてみせた。
「そっちが探してるんじゃないのか」
「もちろんやっている。だがお前たちはどうなんだと聞いているんだ」
「おいおい、俺らには守秘義務ってやつがあってだな」
「容疑者の内情をぺらぺら喋っておいて今更それか」
そこを突かれるとやはり痛いらしい。コーヒーをわざとらしいほど音を立てて飲むと、やがてちらりと天井を見てぼやいた。
「それが、なーんにもわからないんだ。身元どころか足取りもな。まったくIRPOってだけでここの奴らは手を払いやがる」
もともと犯罪発生率が高く、常にパトロールといたちごっこと名高いここクーロンならば、そうなってしまうのも無理はない。間接的とはいえ、彼らを信用できないと言う声も飽きるほど聞いている。マンハッタンのようにトリニティのお膝元ならばいざ知らず、こういうところではやはり身動きが取りにくいのだろう。
「おいおい、聞くだけ聞いてお前はだんまりかよ。天下のグラディウス様だ、何か掴んでんじゃないのか」
「まあ、それなりにはな。一つだけいいことを教えておいてやろう。あの男はおそらくもうクーロンにはいまい」
アニーが釣ってきた情報だ。それなりに信用度は高い。覗きが趣味だという男に掛け合って、シップ発着場付近に仕掛けたカメラを見せてもらったところ、それらしき人物が入っていくのが映っていたという。これだけですでにいないと断言するわけではないが、少なくとも、このリージョン以外をうろついているという可能性はある。
「よし。だったら、発着場のカメラを調べるまでだ!」
それを知ったとたん、ヒューズはすぐに店を飛び出した。そういう公的な方面は彼らの方がやりやすい。嫌がられることも多いとはいえ、やはりあの腕章と手帳の威力は絶大だ。
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