◆The Adventure of the Aimed Man
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「それで、今度は何なんだ?」

 私が腰を下ろしたのを待ってドールが手に持った紙を持ち上げる。

「事件の発端と概要を説明するわ。クーロン署に通報が入ったのは午前二時三十四分。通報者は被害者の同居人チャン・ウェー、二十二歳で、アルバイトから帰宅した時に被害者が殺されているのを発見し通報。被害者はワン・ヤオ、二十四歳。死因は喉を切られたことによる失血死。部屋は荒されていないことから、怨恨による殺人とクーロン署は見ていたの。まあ、ここまでならただの殺人事件でうちに持ち込まれることもなかったんだけど」

 そこまで言うと、ドールは次のページをめくり、ため息をついた。

「実は先週、シュライクでも同様の事件が起こっていたのね。被害者は井波武雄、二十三歳。こっちも同じように首を鋭い刃物で切られて死んでいたんだけど、一見何の共通点もないこの二つの事件に一つだけ共通することがあったのよ」
「何だ? 同じ女を取り合ってたとか?」
「最後まで聞いてちょうだい」

 ぴしゃりと言い放ち、ドールは続ける。

「被害者の体からはそれぞれ指が一本なくなっていたの。シュライクの被害者は左手薬指、そして今回のクーロンでも左手の薬指。そこでシュライク署とクーロン署が話し合った結果、リージョンをまたいだ殺人事件ということで本部に事件が持ち込まれたというわけ」
「さらに連続殺人として長期捜査になりそうだから、俺らに回ってきたんだな」
「ご名答。いつもと違って頭が冴えてるじゃない」
「な、なにおー!」

 ヒューズはそう叫んだが、まったくドールの言う通りだ。普段金と食べ物と『おねーちゃん』という部類の女性の話しかしない彼にしては冴えている。しかも寝起きなのに。

「とりあえずあなたたち二人で捜査にあたって欲しいの。今、手が空いてるのはあなたたちしかいないのよ。それじゃあ、よろしくね」

 ドールは用件を済ますとさっさと部屋から出て行ってしまった。

「はあ。またお前とかあ。たまには麗しのドールちゃんとも組んでみたいんだけどな」

 彼がそう言うのも無理はない。よほど忙しい時でない限り、コンビで行動するのがここの主流で、大抵の場合、ドールはモンスターのコットンと、そしてレンはメカのラビットと行動を共にする。結果として余った私とヒューズがやむを得ずコンビを組んでいるというわけだ。

 どうせなら私もレンやドールと組みたいのだが、未だに願いは叶っていない。コットンと組んで吸収のチャンスを狙う、というのもなかなか捨てがたいのだが、この人員不足の中で減らしてしまうと、さらに時間に追われる生活になってしまうのは目に見えているので、今は我慢している。別にコットンでなくてもティディ種なら何でもいいんだが。

 ちなみに、ラビットとは一度組んだことがあるのだが、奴が犯人の弾丸を受けて故障してしまい、搭載していたミサイルから銃までを無差別発射するというひどい目にあったことがあるので、それ以来、申し出があるたびに丁重に断りを入れている。

「まあ、しょーがねえな。

 おい、サイレンス。綺麗なおねーちゃんが引っかかったら俺に回してくれよ。約束だぞ」

 いつもと同じことを言って、ヒューズはいきなり私の小指に無理矢理自分の小指を絡めて上下に振った。『指きりげんまん』というらしい。人間が約束をする時の風習の一つだ。

「さあ、そしたらさっそく出かけるか。とりあえずクーロンに行って、それからシュライクだな」

 ハンドブラスターを確認するヒューズの横で、ドールが置いていった捜査資料を丁寧に折りたたんで、朝食が入った巾着へ入れる。ついでにハンドブラスターも中に入れ、巾着の口を閉めようとしたところでなぜかヒューズに止められた。

「おいおい、いつも言ってるだろう? ブラスターは懐に隠してなんぼだって。かわいらしい巾着からそんな物騒なもんが突き出てたんじゃ、おねーちゃんも寄ってこないぜ?」

 大きなお世話だ。第一私には妖魔の剣がある。

「だからって犯人一突きにして殺しちまったら意味がないだろう? 悪いこと言わねえから、とりあえずブラスターを巾着にしまうのは止めろ」

 あまりにも真剣に言うので仕方がなく懐へと場所を移動させる。ごつごつとしていて気持ち悪い。

「よーし、それでOKだ。じゃあ、行こうぜ!」

 ドアを開ける音も軽やかにヒューズは部屋を飛び出していく。扉がロックされる音を確認してから私もその後に続いた。

 受付の前まで来ると、先に行ったはずのヒューズが受付担当の女性と話をしていた。

「そんなわけでお仕事だからエールをちょうだいよ。俺のほっぺにプチュッとさ」
「もう、何度言われてもそんなことしません! それより早く仕事に……あ、サイレンスさん」

 私を見つけたとたん、彼女は微笑んでぺこりと頭を下げた。

「その巾着、使ってくださってるんですね」

 その一言にヒューズの顔色がさっと変わる。

「な、なんだってー!? サイレンス! その巾着をよこせ!」

 よこせと言われても、なかなか使い勝手のいいものを手放す気にはなれず、後ろでわめくヒューズをほったらかして、私はパトロール専用のシップ発着場に向かって歩き出した。

「お仕事がんばってくださいね、サイレンスさん!」
「おいこら待て! どーいうことだッ! おい、待てって言ってるだろうが!」

 二人の大声が閉まりかけの発着場の自動扉の向こうで聞こえた。


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