◆The Adventure of the Aimed Man
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「ここに男の所在が書いてある。ほんの十分前に仕入れた情報だから鮮度は抜群だよ」
「エレードさん! 最高だぜ!」
本当に最高だ! まさかそんな情報を手に入れられるなんて! ああ、羽が出てしまっているが、そんなことはどうでもいい!
「さあ、捜査はスピードが命だ。この情報を入手したことで浮かれて男を逃してしまわんようにな」
きちんと釘を刺すことも忘れないエレード署長に見送られて、私とヒューズはメモに書かれた場所へと車を飛ばした。
マンハッタンのショッピングモールに程近い観光ホテル・マルチミリオネアホテル。それがメモに書かれていた住所だった。特に目立った外観でもなく、さほど怪しい感じもしない。ただ、マンハッタンにある他の建物と同じように空へと向かってまっすぐ伸びているだけだ。
「うひゃー。ここって去年できたばかりの豪華ホテルじゃねーか。こんなとこにいるのかよ」
そうは言ってもここだと書かれているのだから仕方がない。それよりも気になることがある。
「俺は、マリー、もしくは真犯人もここにいると思うな」
その言葉に頷く。
そうだ。マリーがワン・ヤオと一緒に出て行ったのは目撃されている。だとすれば、二人が一緒にいる可能性は高――待て。
ならば事件当夜の二人の言い合いは何だったのか。言い合いをして「人殺し」とまでののしった相手と、翌朝腕を組んで出かけるだろうか。
「どうした?」
ヒューズが顔を覗き込んでくる。ちょっと待ってくれ。何か頭にひっかかって――。
その時、とんでもない考えが頭に浮かんだ。人間はこんなことを考えるのだろうか。しかし、そうだとすれば全ての線が繋がる!
私はヒューズに今思いついた考えを話した。始めはぽかんとしてそれを聞いていたヒューズも、話が進むにつれて徐々に顔つきが変わった。
「……あり得るぞ。もし、犯人が本当にそう思っていたとしたら。どちらにしろ、ワン・ヤオの身が危ない! 行くぞ!」
走り出したヒューズと一緒にホテルの玄関に入る。
「あ、あの、お客様……!」
カウンターの女性の声にも立ち止まらず、私たちはエレベーターに飛び乗った。男がいるとされているのは2306号室だ。
「くそっ! さっさと進めよ!」
窓から見える景色は少しずつ変わっているとはいえ、観光ホテルのせいか少しばかりスピードが遅い。この風景が変わるのと同じ速度で事態も進行しているかもしれない。
ようやく到着の音がなり、扉が開いた。ざっと周りの部屋番号を見ると、2306号室は角を曲がってすぐの部屋だった。
「……準備はいいな」
ヒューズが胸ポケットにしまっていたブラスターを少しだけのぞかせる。いつでも引き出せるようにだ。
「よし。押すぞ」
ヒューズが金色のライオンの口の中にボタンがある、という何とも趣味の悪いインターホンを押す。中から若い女の声が返ってきた。
「IRPOの者だ。木田孝弘殺害の件で話が聞きたい」
ドアへと向かってきていた足音がぴたりと止む。次の瞬間、ぱたぱたと軽い足音が部屋の中に響いた。明らかにドアから遠ざかっている。
「……おい?」
私たちが警戒心を高めたその時だった。
「やめろ、マリー!」
男の声が聞こえると同時にパァンと聞き覚えのある音が響いた。続いて何かがどさり、と倒れるような音が聞こえた。
はっとなって顔を見合わせたが、そのとたん中から女の叫び声と男の怒鳴り声が聞こえ、私たちはふっと息を吐いた。どうやら弾は外れたらしい。
「早く! 早く来てくれ!」
マリーの名を呼んだ男が叫ぶ。それが私たちに向けられたものだと瞬時に判断し、ヒューズがドアノブを掴む。
「くそっ! 閉まってやがる!」
二人で蹴りや体当たりを何度も繰り返すが、ドアはびくともしない。
「こうなったらこれだ!」
ついにヒューズがブラスターを懐から取り出す。放熱量を最大にして狙いを定め、ドアノブへと向かって放つ。ジュッと音がして、光線が当たった部分が少しだけ溶けた。
「いけるぞ!」
私も一緒になってブラスターの引き金を引く。二人で何度か引き金を引くと、ついに分厚いドアに穴が開いた。できたばかりの穴に手を突っ込む。
「おい! やけどするぞ!」
手に鋭い痛みが走ったが、構ってはいられない。手を突っ込んで少し辺りを探ると鍵はすぐに見つかった。中から聞こえる声に焦りながらも、慎重につまみをひねってドアを引っ張ると、いとも簡単にドアは開いた。
「お前、血まみれじゃねーか!」
見るといつもしている手袋は真っ青に染まっていた。かなりの痛みがあるが、これぐらいの傷ならしばらくすれば治る。
怒鳴るヒューズをよそに開いたばかりのドアから中へと入ると、床の上に銃を握ったままの女とそれを押さえつけている男がいた。間違いない。マリーとワン・ヤオだ。
「おい、無事か!?」
遅れて駆け込んできたヒューズが、ワン・ヤオと一緒に彼女の体を押さえつける。その間に私は無傷だった右手でマリーの手から銃を奪い取った。少しばかり抵抗も見せたが、私たちが手帳を見せるとついに彼女は大人しくなった。
「……助かりました。正直、俺一人の力では――」
「あんた、ワン・ヤオだな?」
ヒューズが聞いたとたん、ワン・ヤオは驚いた表情を見せた。しかし、すぐにそれを肯定する。
「それで、あんたがマリーか」
押さえつけられたままのマリーが、無言で頷いた。
「……木田孝弘を殺したのは、あんたかい?」
「……そうだよ」
ヒューズと私をそれぞれ睨みつけると、低くうめくように彼女はそう答えた。
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